『深まる秋』
火黒×良守
何の企画で使ったか忘れた…
hit記念だったかしら…
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いつの間にか夏の暑い季節が過ぎて、今は秋。
秋と言えば―。
「うわぁ~真っ赤だねぇ」
「俺もこんなになってるとは思わなかった」
火黒は自分より少し後ろを歩く良守を見返った。
「俺さぁ、紅葉見たの久しぶりなんだよねぇ」
「・・・そっか。お前、元は人間だもんな」
「こうやってまた見れるなんて思ってもなかった・・・」
今まで見たことのない表情で木々の間を縫っていく火黒。
そんな彼を、良守は少し笑いながら付いて行く。
「昔もこうやって見に来てたのか?」
「うん、まぁね」
火黒は落ちてきた葉をひょいと掴んで笑う。
「どんなに人切りの仕事を頼まれても、この時期にはあんまりやらないようにしてたからね」
「言ってる言葉が怖えーよ」
昔人間、今妖。
そんな奇妙な生き物は、ごく当たり前に紅葉を楽しんでいた。
「・・・どうしたんだよ」
ふと前を見ると、火黒は一本の巨木の前に立ってじっと一点を見つめていた。
横から覗くと長い傷後があった。
「この傷、多分俺がつけたやつだと思う」
「へー・・・」
『人切りの仕事を止める?!』
灰色の着物を着た男が目の前に立ちふさがって怒鳴っている。
それに笑って答えるもう一人の背の高い、細身の男。
『止めはしないさ。でも、力を手に入れるために止めるんだ』
『力だと?何言ってんだ。今のお前より強い人間なんかいねぇよ』
『そうかな』
細身の男は、相手の真後ろにそびえる木を見上げる。
『世の中は広いねぇ』
細身の男は喉の奥で哂う。
『刀も、毒も、何も使わずに人を殺すことの出来るやつがいるんだから』
遮断された小さな空間。
渦巻く負の感情。
『・・・俺が止めるのは切ることじゃねぇよ』
『だったら何なんだ』
『・・・切るのには変わりない。ただ呼び方が人切りじゃなくて、人間切りに変わるんだよ』
その言葉に男は思わず噴出した。
腹を押さえて木を拳で叩く。
『ひひひっ!何だよそれ!お前、頭可笑しくなったんじゃねーか』
『可笑しくはないさ』
嫌に冷静な声がして、男は首をあげる。
そこには唇を裂けるぐらいに持ち上げた、人間の男が立っているだけ。
一つ違うのは、いつも仕舞っている滑らかな刃を持つ刀を鞘から出していること。
男の顔が凍りつく。
『止めるのは、人間だよ。俺は世の理から外れる』
そして刀を横に振るった。
「・・・火黒?」
自分を覗き込んでいた良守に驚き、軽く声を上げる。
「あ。ごめんね~聞いてなくてさ。で、どうしたの?」
「お前さ、妖になったの後悔してる?」
突然の真剣な質問に少し苦笑する。
「後、悔・・・ねぇ。妖になってから感情の起伏が少なくなったから、そのことに関しては後悔してるよ」
少し間を置いてから口を開いた。
葉と同じ赤い目を、良守に向けてふっと細めた。
「でも、もし俺が普通に人間をしてたら、良守には会えなかったでしょ?だから今は後悔してないよ」
「う・・・・・・」
しまったというかの様に顔をそらせた良守。
その顔は紅葉した葉のように真っ赤だった。
その手を握って、
「ねぇ、来年も一緒に来ようよ。ずっと、ずっとさ」
「・・・当たり、前・・・だろ・・・・・・っ」
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07’10.3~11.3まで配布していた模様。
何かこういう描写っていうか、雰囲気好きです(笑)
2007.10.3
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