『当たり前の優しさ』
良守と愉快な仲間たち
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「なんかさ、最近人多いよな」
「ん?多いって・・・?」
良守の問いかけに市ヶ谷は首をかしげた。
「ほら・・・あの山の上にある寺とか、近くの墓地とかさ」
「あ~墨村。お前って本当に何にも知らないんだな」
自前の手帳をぱたんと閉じて、田端は笑った。
「彼岸なんだよ。確か一昨日からな」
「彼岸ね、なるほど・・・」
今先程すれ違った親子連れを見返る。
父親は子どもの手を、母親は花を抱えていた。
「彼岸ってのは、その家の先祖が帰ってくる期間の事でな。それを迎えるためにそれぞれの墓に行ってお供えとかするんだよ」
「っるせー!それぐらい知ってる!!」
眼鏡の端を上げて語る市ヶ谷の視界に、良守の怒った顔が大きく入った。
「くそっ。何だよあいつら~俺はそこまで馬鹿じゃねぇっつうの」
二人と別れてから、良守はぶつぶつ言いながら家へ向かった。
握りこぶしを高々と上げて、空を見る。
夕方が近い。
空はオレンジ色に染まり、情緒溢れる雲が泳いでる。
「先祖・・・ね」
名前しか知らない先祖。
400年続く割に先祖、いや、開祖・間時守の詳細は何一つ残っていない。
彼の墓すらどこにあるのかも分かっていない。
ただその力の使い方と心得だけを残し、今に至る。
「・・・誰も迎えに来なくて、開祖は寂しくないのかな」
ぽつりとこぼして再び空を見上げる。
「もし迎えに行って会えたりしたら、烏森の事もっと聞きたいな・・・」
一刻も早く烏森を封印してしまいたい。
そうしたら時音を始め、もう誰も傷つかない。
学校もきっと安全な場所になるだろう。
「よし。今日の夜学校行ったら、高い所からでも拝んでやろう!あそこで開祖が戦ってたのは間違いないだろうし」
にっと表情を明るくすると、一直線に家へと走って行った。
彼の去った後にざわりと小さな風が通り抜けた。
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お彼岸っぽく。
墓参りに行った帰りにふと思いついたもの。
情景描写は私が見たそのままを入れてます。
2007.9.22
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