『少しでも、素直になれたら』
火黒×良守
若干
BL要素あり
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今夜みたいに少し強めの風が吹く日は、何だか心細くなる。
人肌が恋しいとか、きっとそんなのじゃなくて。
自分の心が風にさらわれた様な気持ちになるんだ。
どんなに身構えていてもするりと取られる。
返せと言ってもなかなか戻って来ない。
だから、俺は大きな溜め息をついてその空白の心を埋めようとしてみた。
「あんた、また溜め息かい?」
良守は目を釣り目にして上を見る。
「うるせぇよ斑尾。良いじゃねーか、溜め息ぐらいよ」
「あんた知ってるかい?溜め息を付くと幸せが逃げてくって」
斑尾は少し気取った様に、斜め上から良守を見下ろして言った。
「うわ・・・何女子みたいな言い方してんだよ。気持ち悪いなぁ」
その良守の一言に、斑尾は珍しく腹を立てた。
牙をぐわっと剥き出しにして良守の顔に噛み付こうと迫った。
「本当のことを言っただけだよ、あたしゃね!そんなんだから、来るヤツも来なくなるんだよ!」
「誰だよ、来るヤツって!」
「ふん。自分で考えな。あたしゃ先に帰るよ。あーやだやだ」
良守が反抗して何か叫ぶのも構わず、白い犬の妖は墨村家の方へと飛んで行ってしまった。
誰も居なくなった学校の校庭。
また一つ強い風が吹いた。
良守は思わず身を震わせ空を見上げる。
そこには、ただただ丸い月が浮かんでいるだけ。
溜め息一つ。
無意識に息を吐いた事に驚き、慌てて口を押さえる。
「・・・何が幸せが逃げていくだよ。・・・・・・結」
指を立てて足元を持ち上げられる、小さめの結界を作る。
そして少し上に違う物を作りそれに飛び乗る。
そうして上へ上へと進んで行った。
「・・・しまった・・・来るんじゃなかった」
良守はがっくりとうな垂れて結界にどかりと座り込んだ。
学校の屋上より少し上にこしらえた結界。
そこに立つと、地面にいた時よりも強い風が吹き抜けていた。
「風を避けるつもりが、風に当たりに来ちまったな・・・」
「ほーんと。君って何も考えずに動いちゃうんだねぇ」
低い男の声。
それに敏感に反応した良守は、伏せていた顔をぱっと上げて前を見た。
その視線の先には―、
「か・・・ぐろ」
「久しぶり、良守!」
ぶんぶんと陽気に手を振る火黒は、相変わらず妖らしくなかった。
呆気に取られて見ていると、不意に視界から彼が消えた。
「斑尾くんに言われたんじゃないのー?溜め息付くと幸せが逃げちゃうって」
真後ろから、耳元に響く声。
ダイレクトに伝わる振動に、良守は体をびくりとさせる。
握っていた手をさらに強く握り込んだ。
それを目ざとく見付けた火黒はその手首を掴み、反対の手で良守の細い顎を摘んで半ば無理矢理後ろを向かせる。
「や・・・・・・っ」
「止めて良いの?寂しかったんでしょ、一人が」
「・・・寂しく、なんかないっ!放せ!!」
「嫌だよ」
そう言って手首をさらに強く握る。
その強さに良守は軽く悲鳴を上げた。
「・・・・・・俺も寂しいんだから・・・。すぐに良守に会えないしね」
「・・・ぇ・・・・・・?」
「風が吹く日は特にそうさ。良守も同じなのかな?って気になってさ。斑尾くんに頼んだんだよ」
「・・・アイツめぇ~~~~!グルだったのかっ!」
「まぁまぁそう怒らないでよ」
火黒は手の力を緩め、良守の腕を解放する。
それでも顎に触れている手は引かなかった。
「ちょ・・・あのー・・火黒さん?」
「んー?」
「あ、顎痛いんですが・・・」
「じゃあこうすれば痛くないよね」
そう言うや否や、無防備な良守の唇を塞ぐ。
触れるだけのキスから、だんだん深く。
それに伴って、息をする間も与えない程荒々しく良守を追いかける。
しばらくして火黒はようやく良守を解放した。
良守の息は切れ、口元からは一筋透明な蜜が伝っていた。
それを装束でぐいっと拭い、胡坐を掻いて火黒の方を向く。
「・・・・・・寂しいのは、お互いさまってか」
「うん、まぁそんなところだねぇ・・・」
珍しく語尾を濁らせ火黒は視線を外す。
相変わらず冷たい風が空を駆け抜けていた。
「・・・来いよ、俺ん家。どうせ父さんやじじい達もグルなんだろ?」
「よくご存知で」
「だって晩御飯は家に置いてるからって父さん言ってたからな。そこで気付きゃ良かったよ」
悔しそうに頭を掻きむりながら叫ぶ良守に、火黒は思い切り笑った。
そして手を差し出す。
「行こう。君のお父さんの料理、美味しいから好きなんだ」
「・・・おう!」
良守は足元の結界を解除した。
そして体が落下し始める前に火黒に抱きついた。
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何だこのオチのない話は…orz
うちの火黒氏は、夜中に恋人に会いに来るのが好きなようです(笑
まぁ妖だからねー
2007.10.9
時音はどうしたのさ?
↓
「あれ?!火黒さん」
「こんばんは、時音ちゃん」
時音は突然の来訪客に驚いて、慌てて彼の元に走り寄った。
「良守なら今校庭の方にいますけど?」
「みたいだね~また小さな妖相手に手こずってたみたいだし」
「あちゃー・・・あの子、また見っとも無い姿を火黒さんに見せて・・・」
時音は頭を抱え込み溜め息を付いた。
「あ、女の子が溜め息ついちゃダメだよ。幸せが逃げちゃうって話だから」
「そ、そうなんですか!」
時音は慌てて口を押さえ、そしてはっとした。
「・・・流行の迷信、ですよね」
「良く気が付きました。良守は分かるかなぁ」
火黒はくつくつと笑って校庭のある方角を見た。
時音は少し考え込んで、
「あの、あたし先に帰ります。今から白尾に頼んで斑尾を呼んで来てもらうんで、ちょっと試してみて下さい」
「わーありがとう。ごめんね~」
時音は笑って、隣で同じ様に笑っていた白尾を使いにやった。
+++
ま、こういう会話があったとか。
全くうちの時音ちゃんは世話のやける奴らを上手く見守ってくれてます。
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