『気持ちが伝わる時-後編-』
良守×時音
-----
少しずつ、近付いていきたい…
「やぁ、時音ちゃん」
修史は驚いて、そして笑顔で迎える。
戸をもう少し開けて中へ入るように促すが、彼女はそこから一歩も動かない。
あ。と軽く声を上げ、修史は時音の視線に合うように少し腰を落とす。
「お義父さんは今留守だし、入っても大丈夫だから」
「・・・・・・はい」
肩の力が少しほぐれ、ようやく時音は頷いた。
そして修史に背中を軽く押され中に入った。
「良、守・・・」
「うあ?!と、時音?」
縁側に腰を下ろし、ぼんやりと外を眺めていたところに掛けられた声に良守は飛び上がって答えた。
落としそうになった湯飲みを抱え、信じられないとばかりに時音を見上げる。
「ぁ・・・こっち、座れよ。な?」
「ありがとう」
時音の後ろに立つ修史が良守に軽く視線を送り、その場を立ち去った。
柔らかい日差しが墨村家の庭に入る。
良守はちらと隣を見て、そしてため息をついた。
「治療してくれて、ありがとうな。お陰で随分楽になった」
「・・・・うん」
「やっぱお前には勝てねーよ!俺だってこんな治療出来ないし・・・。
じじいめ!もっとちゃんと修行とか見て欲しいぜ」
がーっと悪態を付きながら伸びをする。
伸ばした腕の隙間から、再び時音を見た。
「(少し、痩せた・・・・・・?)」
光の加減か、うつむいているからか、理由は分からないが、少なくとも表情は明るいとは言えない。
「気にしてんの?俺が怪我したこと」
「っ当たり前じゃない!あたしの・・・!あたしのミスで、そんな怪我して・・・・」
「コレぐらい、しばらく大人しくしてたら治るって」
「・・それだけじゃないでしょ?見たの、あんたの体についてるたくさんの傷・・・」
良守はびくりとして時音から視線を外す。
怪我してるところは何度か見ているから分かっているだろう。
しかし、実際にその傷の後を見せたことは無かった。
「・・・あたしを守ろうと、ずっと前に出てたよね」
「そ、そうか?ほら、俺突っ走るタイプだろ?その加減じゃねーのか」
また沈黙が流れる。
さあっと風が吹き、部屋の中に心地よい空気が流れ込む。
「良守」
「何?」
「あんた、烏森の力を封印しようとしてるって、前言ってたよね?」
「え?!あ、あぁ・・・・」
止めろとか言うのか?と複雑な顔をして時音を見た。
「違うの。それ、あたしも手伝わせて」
「はぁ!?・・・・痛」
急に背中を動かしたのがいけなかったのだろう。
良守は痛む背中を丸めてその衝撃に耐えた。
「あんた一人にやらせる訳にもいかないしね。突っ走るヤツなんだし、見てる方が冷や冷やして仕方ないわ」
時音は良守の背中を優しく撫でた。
痛みのせいで若干引きつった顔をした良守が時音を見上げる。
時音は庭の木々を眺めて、ふわりと笑った。
「そしたら、何か変わりそうな気がするの」
「何かって・・・なんだよ」
「それは分からない。けど、何か変わるわ。だから、頑張ろう」
そう言って手を差し出してきた。
良守は口をぽかんと開けて、手と時音を見比べた。
そしてにいっと笑うと、がっしりとその手を握った。
「おう!!」
*
「それじゃあ、お邪魔しました」
「またいつでもおいでよ」
修史は時音にお菓子の入った袋を持たせた。
良守は用意が出来たのを見計らって扉を開けた。
「あ・・・」
小さな悲鳴を上げて、良守は立ち尽くした。
それに気付いた時音と修史も、同じ反応をした。
扉の向こうにいたのは、出かけていた繁守だったのだ。
玄関には長年因縁関係を持つ雪村家の跡取りがいる状況。
そこにいた誰もが、背中に冷や汗を感じたに違いない。
立ち尽くす3人に構わず、繁守は玄関に入る。
そして、手に持っていた紙袋を時音の手に握らせた。
「え?」
「これは礼じゃ。雪村のばーさんが昔好んで食べとった和菓子じゃ。家族で食べい」
そう言うとぽんと時音の肩を叩き、
「良守が世話になったな」
と小さく言って自室へと向かった。
呆気にとられた3人は、しばらく動くことさえ忘れていた。
「じゃあ、また夜にな」
「えぇ。あ、これ・・・ありがとう」
「や、俺もビックリしたよ」
門の扉を開けて、時音を先に出す。
足を自宅に向け、軽く手を振る。
その後ろ姿を見ながら、良守は軽く手を握り締めた。
強くなることが本当に与えてくれるもの。
それは―――、
+++
後編です。
一番書いてて楽しかったのは、繁森が帰ってくるところでした。
2007.9.13
PR