『気持ちが伝わる時』
良守×時音
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届けたい、ただそれだけ…
「良守っ!」
妖を吸い込んだばかりの天穴を放り投げて、時音は地面に伏した少年の下へ駆け寄った。
今夜現れた蟷螂のような格好の妖は、素早い動きで二人を翻弄した。
『ひゃはは!オレサマの動きについて来れるカナァ?!』
「うっせー!待てこのやろうっ!」
「ちょっと良守!落ち着きな」
時音の静止も聞かず、蟷螂を追って校舎の裏手へと走って行った。
軽い舌打ちをして彼を追おうと一歩踏み込む。
「ッハニー!」
白尾の悲鳴を聞いて後ろを振り返ると、そこには良守が追っていたはずの蟷螂の姿が。
『単純な小僧は一直線だかラ、振り払うのも簡単ダゼ』
「結っ!」
細長い結界を放つが、長い手足には一本も突き刺さらなかった。
そしてふっと消える影。
「上だっ!」
再び白尾の声がして上を見上げる。
大きな鎌が、ゆっくりと頭上から降ってきた。
避けるタイミングも、思考も奪われてその場に立ち尽くしてしまったその時、
「結!!!」
青い結界が時音を囲み、前から強い力で抱きしめられる。
黒い癖のある髪の毛がふわりとなびいた。
そして背中が地面に触れて土埃が舞う。
「滅!」
ばっと起き上がった良守は、瞬時に蟷螂に特大の結界を張り、有無も言わさず滅した。
次に二人を囲っていた結界を解いて天穴をかざして、そして倒れた。
「良守?!」
「ハニー、先に吸い込んで!再生してるから」
「分かった、天穴!!」
粉々に飛び散った妖の塵を吸い込み、天穴を放り投げた。
「良守、良守!」
「・・・こりゃヤバイわね・・・あたしゃ繁じい呼んでくるから、止血ぐらいしといてよ」
時音と白尾の後ろからすいー・・とやってきた斑尾は、驚くほど小さい声でそう呟き、とんでもない速さで学校を後にした。
それだけ、良守の傷は酷かったのだ。
結界で防いだものの、鋭い刃が良守の強い結界を突き抜け、時音をかばったその背中に長い傷を作った。
そこから多量に血がにじみ出てるのが、着物越しにはっきりと見える。
「白尾、おばあちゃんに包帯と、一番効きそうな薬をもらって来て」
「了解」
白尾を黒い空に見送り良守に向き直る。
そしてその着物を脱がせた。
「・・・っ」
時音は今一番新しく出来た傷よりも、それ以前から付いている傷の多さに言葉を失った。
自分を守るために前に出ているのは良く分かっていたが、こんなにも体に傷を作っているとは思ってもいなかった。
「良守、しっかりしなさいよ・・・」
勝手に流れてくる涙も拭わず、時音は止血を始めた。
「・・・な、ぁ・・・大、丈夫・・・?」
「良守!」
しばらくして良守の口から言葉が洩れた。
うっすらと目を開け体を起こそうとする良守を、時音は慌てて止めた。
「動かないで!」
「怪我・・・なかった?」
「あんた、自分の心配も出来ないの?!黙ってて!」
「大丈、夫・・だから、・・・泣くなって・・」
「あんたが、こんな馬鹿してくれないんなら泣きやむ」
手を動かしつつ、精一杯の言葉を紡ぐ。
そして、ふと何年前かのことを思い出した。
幼い良守を守って、腕に残る怪我を負った昔。
母の話では、良守は泣きながら止血をして自宅まで時音を背負ってやってきたという。
今自分がやっているのは、かつての良守と同じパターンに違いない。
最後まで自分の力で良守を助けたいが、そうも行かない。
ならば。
出来る限りの治療を施して、繁守に託そうではないか。
丁度白尾も薬を抱えて帰ってきた。
着物の袖を結ぶ紐をもう一度締めなおし、時音はさらに治療を進めた。
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時良でもいけそうな内容ですね…って言うか良守、怪我させてばっかりでごめん;
二度目の中編です。
2007.9.11
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