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とびうお

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2008.06.07 Sat 「 お人よし-後編-結界師
『お人よし-後編-』
火黒×良守

BL要素強です、お気をつけて!

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勝手に足が動いた。


そう言い訳すれば、見逃してくれるかな…?


「良兄」
「ん・・・利、守・・・?」

真っ先に見えたのはしっかり者の弟・利守。
ほっと息を吐くと、

「良かった・・・今おじいちゃん呼んで来るよ」

利守はぱたぱたと部屋を出て行った。
起きようとして、初めて体が動かないことを悟った。

そして記憶が蘇った。




『体を張って見せてくれたお礼をさせてよ』

耳に残る低い声。

その後首に痛みが走って、それに耐えられなくて意識を手放した。
今こうして目が覚めて、利守の顔を見て、自分が生きてることに驚いた。
あのまま俺を殺してしまえばいい状況で、どうしてあいつは・・・。




「良守」
「ぁ・・・じじい・・」

良守の枕元に座り、布団の中に入っていた良守の手を取り出す。
手首に指を当て、脈を計る。

「まだ、完全に毒が抜けた訳ではないな・・・」
「なぁ、俺・・・どうしたんだ?」

繁守は眉をひそめ、良守の顔を見つめた。

「火黒、と言う妖がお前をうちまで連れてきた」
「なっ?!」

驚いて体を動かした瞬間痛みが走り、布団に倒れこむ。
繁守は落ち着かせようと、彼に水を飲ませた。

「火黒が・・・」
「そうじゃ。『大方の毒は抜いた』と言いおって、お前をわしに預けて消えた」

繁守は複雑そうな顔作った。


無理も無い。


良守を助けたのは今まさに戦っている敵・黒芒楼の一人なのだから。
ふうとため息を付いて、薬の包み紙を開けた。

「毒消しじゃ。時子が調合したもので、たいていの毒に効くそうだ」

口に含んだ白い粉を一気に奥へと追いやり、水を流し込む。
良守は息を吐くと、再び布団の中に戻った。

「もうしばらくは動けん。烏森にはわしが行く。だからゆっくり休め」

その言葉に無言で頷き、目を閉じた。







「・・・・り」

遠くで何か聞こえる。

「・・・し・・・守」

何度も呼ばれるのにうんざりし、重いまぶたを開ける。
黒い髪が視界いっぱいに広がって見えた。

「あ、起きた。」

次に見えたのは赤い瞳。
暗い部屋に注がれる月の光を浴びて、赤い目が一際輝いて見える。

「火、黒」
「生きてたね、良かった」

低い声がびん・・・と鼓膜に響く。
どうしてここにいるのか、聞く前に布団をめくられた。
火黒は良守の背中を支えて体を起こさせる。
まだ体が毒のせいで平衡感覚が取れないのか、火黒のスーツの端を握った。
そして顔を上に上げる。

「なん、で・・・俺を助けた・・?」
「だーかーら、言ったでしょ?お礼をさせてって」

火黒は片腕で良守を支え、首に手を添える。
繁守がしたのと同じように脈を計っているようである。

「まだダメだね」
「・・・うん」

火黒はちょっとしかめっ面をして良守を見た。

「薬は?」
「雪村の方からもらったのを、飲んだ」
「ふーん・・・」

良守の口元に残った白い粉を指で掬い取り、ぺろりと舐めた。

「んー・・・ダメだね」
「え?」
「もしこのまま雪村家の薬を飲んでたら、復帰はずっと先になるよ」
「効いてない、ってことか?」

不安そうな表情を見せた良守に、肩をすくめて見せる。
そしてスーツの内側から液体の入った小瓶を取り出した。
中の液体は透明で、月の光できらきら光っている。

「これ、あの妖が出す毒の解毒が出来る薬」

良守はびっくりして火黒を見た。

「これあげるから、だから、」

元気になってよと口元を緩めた。
火黒の言葉にぽかんと口を開けた良守。
しばらく沈黙が流れた。

「・・・信じていいんだな」
「俺が、君を殺したいと思ってるんなら、最初から助けたりしない」

火黒はビンのふたを片手で器用に開ける。
ぽん、と軽い音が部屋に小さく響いた。

「・・・一人で飲める?」
「ちょっと、無理・・・」

良守はへらっと笑って火黒を見た。
抱き上げて分かったが、まだ毒の影響が残ってるらしく体が震えている。
息をするのも苦しそうで、ちょっと荒い呼吸を続けている。
火黒はおもむろにビンの口を自分の口に運んだ。

「は・・・?お前が飲んでどう・・・・ん・・っ」



冷たい感触。



その後直ぐに少し温かくなった液体が口の中に流れ込んできた。

「・・・は、ぁ・・・」
「苦しい?」
「大丈・・夫」

良かった、とぽつりと言い、同じ様に薬を含んでは良守の口を覆い、それを流し込む。

数回繰り返して、ようやくビンの中身が空になった。



最後の口移しを終え、火黒はゆっくりと良守から離れた。

月の光が良守の顔を照らし、薬のせいで口元が僅かに濡れているのを見つけた。
火黒はもう一度近づくと、彼の口の周りに残った液体を舌で舐め取る。
舐め取られたその一瞬良守の体はぴくりと震え、じっと火黒を見上げた。
しばらく見詰め合っていたが、ゆっくりとお互いに近づき、そして唇を重ねた。

「・・・終わったよ」
「うん・・」
「体は?」
「ちょっと楽になってきた。・・・・ありがとう」
「どう致しまして」

火黒はにやりといつもの薄笑いをすると、良守を布団の中に戻した。
そしてさっさと立ち上がって、窓際に歩いて行った。

「・・・待てよ」

火黒が振り返ると、良守はぐっと力を込めて体を起こしていた。
慌てて傍に行ってその体を支える。

「薬はそんなに直ぐ効かないよ?」
「分かってる、けど」

良守は火黒のネクタイを無理矢理引っ張ると、その勢いで近づいてきた火黒の唇に自分の物を押し当てた。

「・・良、守・・・っ」

開放された火黒の顔は少し赤らんでいた。
良守はにっと笑うと、

「・・・お礼。ありがたく受け取れよ」
「・・・・・確かに、頂戴致しました」

火黒は負けたとばかりに両手を上げ、微笑んだ。

「また、来る」
「・・・おう。じじいらに見つからない様にな」

開けた窓から火黒はふっと消えた。


その窓を良守は優しく見やり、大人しく布団に体を埋めた。






***






長い廊下を歩きながら、昇ってきた月を見上げる。
火黒はスーツの裾をはためかせてゆったりと歩いた。

「火黒」

突然名前を呼ばれ、くるりと後ろを向く。

「・・・藍緋」

“さん”を付けろとため息を付き、藍緋は火黒の横に並び彼と一緒に歩く。

「・・・研究室の薬品棚にあった薬が一つ減ってたんだ。何か知らないか?」
「薬?何のさ」
「昆虫型の妖が使う毒の毒消しだ」
「ふーん。知らねぇな」
「そうか、なら良い。すまなかったな」

藍緋はそう言うと、見えてきた分岐点を左に曲がった。
火黒は隣の建物の屋根に飛び上がり、その天守閣に腰を下ろす。

「・・・一方通行じゃあなかったんだな」

ぽつりと呟き、月に向かって酌を取るまねをした。



+++
ようやく完結です!
この手の話はどうしても書きたかったので、満足ですv
2007.8.31
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