『お人よし-中編-』
火黒×良守
ちょっとBL要素があるので、ご注意を。
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『良守!』
そう、呼ばれた気がした。
「・・・っは・・」
体の隅々から体温が逃げて行くのが分かる。
「さっきの刃には毒があったみたいだな・・・」
良守が着ている着物の襟を引いて首を見る。
短いが、確かに刃による傷がそこにあった。
試しに指で触ってみると、焼け付くような感触が人皮を通して感じられた。
「おい」
「・・・か、ぐろ・・・?」
うっすらと目を開けてこちらを見る良守に、火黒はほっとした。
意識がある分、まだ助かる予知はある。
「君、無理してたんだね」
足とか疲労困憊みたいだし、と付け加えると、良守はバツが悪そうに視線を外した。
「ちょっと、油断・・・してただけ」
「しんどいのに、俺に見せてくれたんだ」
「別に・・・そういう、訳じゃない」
「ふーん・・・ところでさ、君、今の状態って分かる?」
良守は荒い息をつきながら頷く。
そして火黒にへらっと笑いかけた。
「俺を殺す、絶好の機会・・だな」
「・・・正統継承者が、随分弱気なこと言うね」
火黒は苦笑して、もう一度傷を見た。
今出来ること。
一つ、このまま彼をこの場に置き去る。
一つ、彼の望むままにここで殺す。
一つ、適当な妖を連れてきてしまう。
「ねぇ。今日体を張って見せてくれたお礼をさせてよ」
「・・・は?」
火黒は良守の首筋に指を当てた。
触れたせいで傷が痛み、良守は火黒の腕の中で飛び跳ねる。
「この毒、抜いてあげる」
「っは・・・何、言って・・・?」
「君がこの地に選ばれているのなら、なお更君は生きなくちゃ。」
火黒は片手で彼の体を支え、もう片方の手で傷に触れ、彼の血を付着させた。
そしてそれを口に含む。
一瞬考え込み、
「ちょっと危ないね。ごめんだけど、少し手荒な方法で抜くよ」
痛くても我慢してと耳元で言い、火黒は良守の首にある傷口に自分の口を覆った。
「・・・っあ!」
首に走る鋭い痛み。
血を吸われてると、良守は直感的に悟った。
痛みと共に、得体の知れない何かが同時に良守の中に走る。
「ひ・・・つ!」
ある程度血を吸うと、火黒はグラウンドに血を吐き捨て、再び首に帰る。
たまに吸った血を飲み込んで毒の濃度を測る。
それを幾度か繰り返した。
***
「・・・ふう・・・・」
火黒はようやくその動きを止めた。
最後に吸い取った血をそのまま飲み込む。
「・・うん、これで峠は越えたね」
口元にべったりと付いた良守の血を、スーツで拭う。
良守を見ると、彼は火黒に寄りかかって意識をなくしていた。
辛かったのだろう。
火黒の黒いスーツをぎゅっと握り締めている。
「良く、頑張ったな」
規則正しい寝息を立てる良守の額に軽く口付け、立ち上がった。
そして彼を抱いたまま、学校の門を飛び越えた。
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今回一番書きたかったのは、火黒が良守を治療してるところです(笑)
2007.8.17
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