『お人よし』
火黒×良守
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あいつは絶対変だ。
俺の予感は結構当たるから、きっと変なんだろう。
似たもの同士?
「っはー!ようやく倒せたな~」
「ホント。図体の割りにすばしっこかったわね」
「今日はこんなものか?」
限は少し高めの木から辺りを見つつ二人に声をかける。
「そうじゃない?だいぶ空も白み始めてるし・・・」
時音はぐるりと辺りを見回してそう言った。
空は夜の黒と朝の紫が混ざり始めている。
「よし!じゃあ後俺が始末しとくから、二人共先帰っていーぞ。
時音、そういや今日何かあるって言ってたよな?」
良守が天穴を地面に刺しながら尋ねる。
時音はぐっと伸びをして、
「そーなの。英語の小テストが・・・まぁ大丈夫だろうけど、任せるわ」
「・・・じゃあな」
「おうよ!」
時音もじゃーねと言うと門を飛び越え、限と共に屋根伝いに帰って行った。
*
一人残った良守は天穴で、先ほど倒した大きな熊の様な妖を吸い込んだ。
「たく、こいつのせいで斑尾も白尾もやられちまって・・・」
あれぐらい避ければいいのにとぼやきながら、天穴をしまう。
そしてそのまま帰ろうと後ろを向いた。
「おっつかれさ~ん」
「っ!!」
そこにはのん気に手をひらひらと振る人間がいた。
いや、あいつは人間じゃない。
現在戦っている敵・黒芒楼。
その中で一番強い危険な妖。
そいつが目の前にいる。
「火・・・黒・・・・・・・・!」
さっと間合いを空けて指を構える。
「っと待った待った!今日は戦いに来たんじゃないんだ」
「はぁ?!んな信じられっか!」
火黒は少し唇の先を持ち上げ、困った顔をした。
「今日は散歩に来たんだよ。マジで」
「散歩ぉ?」
妖が夜のお散歩。
どうも奇妙で、可笑しくて、良守は耐えられず噴出した。
「あ、笑ったー。仕方ないでしょ、あそこ暇なんだもん」
「・・ひひっ!・・だって、何か変じゃん!」
「んまぁね。俺はあそこじゃあちょっと変わり者の分類に入るだろうから」
「?」
涙を拭きながら火黒を見る。
彼は校舎の方に視線を送り、遠くを見るような目つきをした。
何とかモデルか知らないが、嫌に整った顔に赤い瞳がよく目立つ。
「(あの薄笑いさえしなければ結構モテるんだろうなぁ・・・)」
ぼんやりそう考えて、慌てて頭を振る。
そしてはっと顔を上げた。
火黒の後ろを一匹の妖が通り過ぎているのが見えた。
彼も気付いたらしく、後ろを振り返ってる。
「ねぇ、いつもどうやって倒してるのか見せてよ」
「っち!見たきゃ見とけ!後でお前も同じようにしてやるからな!」
火黒はふわりと身を翻し、瞬時に良守の後ろに回る。
そのまま殺られても可笑しくない状況だが、全くそんな素振りは見られない。
仕方なく良守は目の前に漂う妖に集中することにした。
「結っ!」
「あーまた外したー」
「うるせぇ!黙ってろ!」
いつもコントロールがいまいちな良守でも、これぐらいの雑魚相手にここまで苦戦するとは思っていなかった。
どうも結界が右寄りにずれてしまう。
違和感を持った良守は右袖をたくし上げた。
紫の腕袖に残る一本の傷。
最後に倒したあのでかい妖から付けられたものだった。
「こんなんで鈍るなよな、俺の結界!」
悪態を付きながら前を見ると、さっきまでいた妖が消えている。
「結界師!上、上!!」
火黒にそう言われ上を見上げる。
真上から長い刃を突き出した妖が高速で降りてくる。
良守は避けようと足を踏みしめた。
「痛っ!」
「結界師!」
膝に痛みが走りがくりとその場に倒れこむ。
どうにか地面を転がるが、伸びた刃が彼の首をかすり抜けた。
態勢を立て直し結界を作る。
「滅!」
ぼひゅ!と音を立てて、妖は跡形も無く消え去った。
「天穴!」
息する間も与えず手に持つ天穴を地面に突き刺し、妖の残骸を吸い込む。
「ふー・・・」
「お疲れサン。あぁやって最後消しちゃうんだ~」
火黒は天穴の先を突付きながら嬉しそうに言う。
「小さいヤツならそのままでも大丈夫なんだけど、こいつ意外に再生能力高いみたいだしな。完全に消し去るために使ったんだ」
「へ~・・でも、結界師。君はコントロールが下手くそだねー」
「う、うるさい!」
感に触って思わず拳を上げる良守。
火黒に突っかかって行った時に、体がどくんと脈打つのを感じて思わず止まる。
「?」
頭がくらくらする。だるい、苦しい、熱い、吐きそう。
そんな感情が一気に体を駆け抜け、訳が分からなくなる。
「・・・・っく」
火黒は良守が変によろけて地面に崩れ落ちるのを目の当たりにした。
「っ良守!!?」
反射的に手を伸ばし、地面に打つ直前に彼を腕に抱きとめた。
「おい!どうした、良守!良守!!」
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初の中編で、3話程度にしようかと思ってます。
えらい中途半端な所で切れてます。
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